CCA建築ワークショップ 金田充弘氏
「建築の保存と活用、その対象と方法を問う」
金田充弘氏x宮本佳明氏x曽我部昌史氏x小川次郎氏
「建築を残すための力」

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2015年8月29日 CCA建築ワークショップ 
金田充弘氏 公開レクチャー
第1部 「建築の保存と活用、その対象と方法を問う」

建築と都市化

私は建築を設計する立場、特に構造エンジニアリングを専門にする立場から既存建築の保存活用を含め社会に対して一体何ができるのだろうか、設計をすることでどのような問題が解決できるのかを日々考えています。これから対処していかなければならない様々な問題の中で、建築が一番関われるとしたら、やはり都市化の問題であると思います。一言に都市化と言っても、いわゆる「人口が増加する都市化」と、場合によっては人口が減少する「様々な方向に成熟しちゃった低成長な都市化」は別の問題です。
 東京がもし2050年頃まで同じ人口を維持していくとすれば、他の都市から人口をどんどん吸い寄せていくことになります。吸い寄せられる側の都市の人口は減るかもしれませんが、減った分を補おうとさらに周りの市町村から人をどんどん集めてしまいます。つまり、都市化は場所を変えて続いていくと思うのです。その中で当然色々な問題が起こってきます。都市化していくプロセスの中で、インフラが単体で都市を作るわけではありませんし、また建築単体で都市化していくわけでもありません。線形的に少しずつ都市化するわけでもありません。つまり、あるところまで都市化していくと途端にインフラが飽和してしまうのです。例えば、水や学校といったインフラが都市を支えられなくなると、新しくインフラを作るより前に、1つ1つの建築の効率が上がっていきます。それでもまだインフラが不足するとなれば、足さなければいけません。この絵(図1)ではインフラを横方向(既存建築物の隣り)に足しましたが、垂直方向に足されることも当然あります。このようにして都市化は進んでいきます。この法則は東京だけではなく、世界中どこでも同じだと思います。

図1
図1 都市化のダイヤグラム

東京のような都市では、高い建物が多く建っているイメージを持たれるかもしれません。しかし、実際には東京23区の建物の平均階数は2.5階しかなく、非常に高密度低層な都市です。日本の他の都市では2.0階を下回りますが、それでも1.8階くらいですから、東京も実は高い建物があるわけではなく、密集しているだけだと言えます。そのような場所に建つ災害に弱い建築をどのように残していくのか、それとも更新して災害に強い建築に変えていくのか。設計に関わる人間としては、「コミュニティや街並みを維持するという面」と「耐震性、耐火性、避難といったエンジニアリング的な問題」をどのようにバランスさせていくのかというのは難しい課題で、必ずしもいつも正解があるわけではないと思っています。

街並みをつくる『なかなか良い建築』

これ(写真1)は私がいま仲間たちと一緒に改修を構想している建物です。

写真1
写真1 研究室のサテライトへ改修中の木造家屋

実はこの建物、表はまだ歪んでいるくらいですが、裏は崩壊しています。これを何とか完全崩壊させずに立て直しつつ、研究室のサテライトとして活用することで街並みの連続性を残したいと頑張っているのですが、構造的に安全に補強できないということはないと思っています。既存の建物の難しさというのは、法律的に不適格なものをどのように合法的に立ち直らせてあげるのかだと思います。
 つまり、技術論としての「できる」「できない」ではなく、一体何を残すべきで何を更新して使っていくのか、またその残し方が重要だということです。世界遺産なんかに登録されてしまうと別で、基本的にはそのままの形で残すことになると思いますが、日本のように歴史が長い国では、特別古くて長い歴史があるものでないとなかなか残してもらえません。オーストラリアやアメリカではそれこそ1900年代に入ってからの建物でも、もう文化的な遺産として完全に保存するということになりますが、日本ではそのようにはなりません。
 逆にいうと、本当に古い建物はちゃんと残ります。一方で、中途半端と言ったら言い方は悪いかもしれませんが、その中間にある50年、100年後から見れば非常に価値があったであろう建物が、今次々となくなっています。去年はアレがなくなった、今年はコレがなくなった、来年はアレがなくなる予定みたいな…。本当はなくしてはいけないものというのはいっぱいあるんじゃないかな。素晴らしい建築ばかりを保存するということではなく、『なかなか良い建築』も保存すべきだと思います。『なかなか良い建築』がなくなると困ります。素晴らしい建築は一般に点の保存になってしまいがちですが、街並みはやはり連続性の中で歯抜けになってはいけないと思います。


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