CCA建築ワークショップ 金田充弘氏
「建築の保存と活用、その対象と方法を問う」
金田充弘氏x宮本佳明氏x曽我部昌史氏x小川次郎氏
「建築を残すための力」

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ONOMICHI U2の改修

ひとつの事例として広島県尾道市の港にある倉庫を改修した『ONOMICHI U2』をご紹介したいと思います(写真2)。

写真2
写真2 ONOMICHI U2

県営2号と県営3号というちょっとだけデザインが異なる2棟の倉庫があり、そのうちの2号を改修しました。今回の改修では既存の躯体は、外装をペンキでお化粧直ししたくらいで、実はほとんど触っていません。
 これ(写真3)が改修前の外観です。

写真3
写真3 県営2号外観

外観だけを見たら、どちらかと言うと、これを残したい素晴らしい建築だというカテゴリーには属さないと思います。この建築を改修した時は築70年でしたが、これをなくしてしまった場合、この建築が持っているその時間の重み以上に良い建築を造るというのは意外にハードルが高いと思うのです。この倉庫は1943年竣工なので戦時中に建てられていますが、戦時中の物資がない中で造られた割には保存状態も良いです(写真4)。

写真4
写真4 県営2号内観

唯一問題になったのは少し不同沈下していることで、これを何とかしなければなりませんでした。補強の必要性と、どのように改修活用するのかということで事業コンペが行われました。
 県営2号にほど近いしまなみ海道を通って、尾道から四国まで自転車で渡る人が多くいます。そこで、ここにサイクリストホテルと飲食店舗を入れようということになりました。一部の柱に入っていたクラックは部分補修しましたが、基本的にはなるべく足場の必要ない低いところを固めることで耐震性を向上させました。コストがかからない、改修しやすいところで強度をアップするような方法をとりました。戦時中の建物でしたが、調査すると、コンクリートの状態も良く鉄筋もしっかりと入っていましたし、かなり精度良くつくられていることが分かりました。サイクリストホテルはこの倉庫の中に新たに建てるので積雪荷重・風荷重を考慮せずに済み、一階の既存の床を頑丈な地盤だと見なすことで基礎も不要でした。当たり前ですけども倉庫の中なので天井高さの制限があるため、クレーンが使えないんですね。そこで人力で運べる軽量鉄骨で2階建てのホテル棟を倉庫内部につくっています。また、どこに窓を設けて採光と通風を確保するのかを考えながら、なるべくエネルギーをかけずにある程度快適な空間が得られるように考えました。
 また、柱や梁は全て既存のものを残してその中に内装を入れていくという形でサイクリストショップを作り、しまなみ海道のサイクリスト・サイクリングツアーの拠点にしました(写真5)。

写真5
写真5 ONOMICHI U2の内観

自転車に乗らない人や近隣の人たちも来られるように、レストランやパン屋さんなども入っています。とてもお洒落に見えますが、事業者が最初に設計側に伝えたことは、「地元の人が行きたくなるような少し非日常だが、それほど敷居が高くないようにしたい」ということでした。食べ物がおいしいこと、アートが色々な場所に展示されていること、それらが移り変わることによって地元の人と外から来る人が交わることを考えました。
 上手くいった理由の1つは、設計コンペではなかったからだと思います。特に既存改修する部分をどのように使うのか。今回の場合であれば、5年間運営していく事業者が設計者と組んでコンペに出します。私が参加したチームはサイクリストホテルとレストランでしたが、それ以外のものを提案してくるチームもありました。県にとって地元の人と観光客が一番繋がるものとは何かということで、これが選ばれました。当然、事業主がいるので誰がどこの部分にお金を出して、どのように5年間で回収するのかという判断もされています。実現する確率を高くするためには、やはり経済的な裏付けが必要であると思います。

用途を変えて建築を残す

ある建築を残したいが、耐震性に難ありという理由で残せませんというのは、よく聞く話です。だいたいは残したくないだけであり、技術的に残せないということではありません。新築するより補強する方がお金がかかりますと言われる場合がありますが、それも補強の仕方や残してどう使うかという事業計画次第だと思います。つまり、何が残すに値するのかという議論が重要で、木造であれ鉄骨造であれ、RC造であれ技術的にほぼ何でも残せるという風に考えて頂いて良いと思います。もちろん、例えば法隆寺といった文化財的に重要な建物を、耐震性を上げるためにその姿を変えずに見えない部分で補強をすることは難しいかもしれません。
 しかし、近代以降のものであれば壁を少し厚くしたり何かを追加しても、その建築自体の価値は変わらないと思います。むしろ、より価値が高まる可能性だってある。先程の倉庫の例でいえば、倉庫として保存するのではなくて新しい用途に活用しなければ、本当に単なる空き家として使われない建築になってしまい、それなら残さない方が良いという考えになります。もともとの用途ではなくても、何か別の用途に転用されて生き生きと使われていることはとても大事なことだと思います。
 八幡でも、素晴らしい建築遺産は当然残すとして、『なかなか良い建築』も残さないと街並みは残りません。『なかなか良い』ものは積極的に用途を変えた方が良い場合もあると思います。用途を変えてでも使い続けることで、さらに価値が増していくと思います。それは本当に街の人がどのくらいそれを残したいか、それを使いたいかということで、その思いを実行するためにビジネスセンスのある人が入って事業を成り立たせる。これはソーシャル・サスティナビリティだと考えられます。
 どんどんなくなっていく『なかなか良い建築』を残していかないと、街並みは次々と壊れてしまいます。つまり、新しい使い方をどのように提案するのか、そこにどのような人たちを巻き込んで、どのような事業性を持たせるのか、ということまで含めたアイデアとそこに情熱を持った街の人たちがいれば、多くの建築は残ると思います。八幡市民会館のような素晴らしい建築であれば当然残すべきです。そこでも新しい用途を考える必要があるかも知れません。さらにもっと残せる、残した方が良い建築も多くあるので、そのようなものも含めて様々なアイデアを出す。新しい建築を造るだけではなく、新しい用途を考えること、それもまた建築を設計する人たちの仕事ではないかと思います。


金田 充弘 /かなだ みつひろ
構造家。東京芸術大学美術学部准教授。1970年東京都生まれ。カリフォルニア大学バークレー校環境デザイン学部建築学科卒業、工学部土木環境工学科修士課程修了。メゾンエルメス(意匠設計:レンゾ・ピアノ)、台中メトロポリタンオペラハウス(意匠設計:伊藤豊雄)、スペイン・サラゴサ万博のブリッジパビリオン(意匠設計:ザハ・ハディド)など数々の建築物の構造設計を手がける。共著に、『30×100 Material マテリアルの使い方展』『松井源吾小作品集』『ヴィジュアル版建築入門3 建築の構造』『オルタナティブ・モダン 建築の自由をひらくもの』などがある。


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