CCA建築ワークショップ 金田充弘氏
「建築の保存と活用、その対象と方法を問う」
金田充弘氏x宮本佳明氏x曽我部昌史氏x小川次郎氏
「建築を残すための力」

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【宮本佳明】
 実は私自身も、完全保存というのがあまり好きではありません。それぞれの時代に適した形で、用途を変えながら残す方が良いと思っています。いわゆる完全保存というものは、昔の古い建物を残すために今の時代にそぐわない状況で無理矢理使う、あるいは凍結する、まるで標本のような感じがします。それではむしろその建築が可哀想な気がするので、時代ごとに合わせて用途は変わっていけば良いと思っています。
 先程、風景という言葉を使いましたが、我々が見ている風景は色々な時代のレイヤーが重なった上にできています。今見えている風景は、もちろん今日できたものでも、昨日できたものでもありません。また100年前にできたものでもありません。とにかく色々な時代のレイヤーがたまたま重なって見えて、今目の前の風景になっていて、その方が自然だと思うのです。だから、建築も完全保存という凍結されたままのものを見せられても、私はあまり共感が湧きません。金田さんもその感覚に近いのかなと思って話を聞いていました。

【金田充弘】
 きっとモノ次第なんだろうと思います。例えば500年前のものであればやはり完全保存すべきかなと思います。しかし、50年前のものであれば完全保存はそぐわないと思います。特に建築は使われなくなると、すぐにダメになってしまいます。そのような意味ではとにかく使うことが大事です。オリジナルな用途で使うことが出来るのであればそのまま使うべきだし、その用途が段々と時代に合わなくなってきているのであれば、新しい用途に変えてやれば良いと思います。とにかく使われるためであれば用途はオリジナルなものであろうと新しいものであろうと構わないと思います。

【曽我部昌史】
 市民会館は500年は経ってない訳ですが、宮本さんと金田さんのお話を聞いていて思ったことは、例えば内部は今の時代に合わせてかなり大きく改変しても構わないけれども、少なくとも外観周りが持っているその存在感みたいなものは継承することに意味があるということは、どうもすでに皆が共有しているらしいということですね。

愛される建築とは

【小川次郎】
 先程のレクチャーにもありましたが、改修して残すための条件がいくつかあるということ、また歴史的な価値があるという話をされていましたね。長年利用してきた建物がみんなに愛されながら老いていくことも大事ではないかと仰っていた気がしますが、確かにそうだと思います。建築学的に意味があるかどうかは別として、みんなが好きなものはやはり残した方が良いじゃないか、ということにとても共感しました。
 一方で、その愛される度合いをどのように測るのかが難しいと思いますが、「やっぱり皆これが好きだよね」という、アカデミズムとは少し離れた普通の人の感覚に根差したストーリーを組み立てられれば、何とかして残していけるのかもしれないと思います。限られた時間の中で八幡図書館や八幡市民会館が残るとしたら、そういうことが問われるのではないかという気がしています。

【金田充弘】
 全ての建物が愛されているわけではないと思います。しかし、色々な意味で完全にダメになっているものも結構上手くいったりします。中途半端にそこにまだ色々な価値が付いていたりすると様々な人の意見が出てきますが、海辺の倉庫で誰にも使われていないとなると、完全に新しいアイデアで活性化させることに反対する人はいないですよね。そういう意味でONOMICHI U2では誰か新しい事業主を付けてやるということに対して、政治的にはすんなりと意見が通ったのだと思います。
 一方、街中の図書館のような施設ではステークホルダー(※4)が多くて難しいと思うんですよね。ただ、図書館は公共建築の中では住民に愛されていて、利用度が高いものなので、壊してしまうのはいかがなものかと思います。先程言われていたように、建築家が「これは良い建築で大事ですよ」と言っているだけではなく、地元の人が「ここで育ち、ずっと見てきた建物で、たくさんの思い出がある。だから残したい」という気持ちがないとなかなか残らないと思います。

【曽我部昌史】
 田舎に行くと、建物を使っている人と風景として記憶に残している人がほぼ一致するじゃないですか。残しましょうと活動する時にはその地域の人たちが頑張って残してくれて、1000人ぐらいの街だったら1000人ぐらいの人が要望書を出せば残す方針になりますが、それ以上の都市になると、誰にその発言をする権利があるのかということが怪しいですよね。私の事務所がある横浜にも残すべき建築は都心部を中心にたくさんありますが、都心部で暮らしている住民は多くありません。一方で、住民以外の利用者や関係者もたくさんいますよね。そのような人たちの声をどのように拾い上げていくのかが難しいと思います。
 最近そのような建物を残す活動をしている時によく参照するのは、ニューヨークにあるハイ・ライン(※5)です。これは残そうと思って行政が残したわけではなく、Friends of high lineというグループがあり、徐々に活動を大きくして、結果として残ったという事例です。そのようなフレンズを作り、保存に向けてきちんと狙いを定めて進んでいければ良いのかもしれませんが、図書館については、今からフレンズを作っていては、間に合わないかもしれません。

【宮本佳明】
 一応補足しておきますと、ハイ・ラインはマンハッタンを南北に貫く高架橋です。しばらく放置されたままの廃路跡を、遊歩道という形で再生しました。保存のために運動する人たちがいたということですが、最初から愛されていたのかというとほとんどの市民は存在すら知らなかったかもしれません。観光客としてハイ・ラインを歩いてももちろん面白いですが、マンハッタンを見慣れた人たちにとっても、普段とは違う視線の高さで改めて街を見ることができます。


※4 ステークホルダー
直接的・間接的に影響を受ける人々や団体など利害関係者のこと。


※5 ハイ・ライン(The High Line)
ニューヨーク市にある長さ1マイル (1.6 km)の公園である。ウエストサイド線の支線で、マンハッタンのロウワー・ウエスト・サイドで運行されていた1.45マイル (2.33 km)の高架貨物線跡を、空中緑道として再利用した公園。


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