CCA建築ワークショップ 金田充弘氏
「建築の保存と活用、その対象と方法を問う」
金田充弘氏x宮本佳明氏x曽我部昌史氏x小川次郎氏
「建築を残すための力」

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質疑応答

【参加者】
 客席の上の天井は構造上、耐震補強に影響しませんか。

【金田充弘】
 屋根の構造は鉄骨のトラスになっていますが、あまり補強する必要はないと思います。多少補強が必要かもしれませんが、それよりもそこからぶら下がっている天井ですね。比較的築年数の浅いものでも、東日本大震災以降、天井の脱落が問題視されています。特定天井といって200㎡以上の天井は特別な耐震性能を確保することになっていますので、これは日本国内の他のホールでも、これからずっと補強が行われていくと思います。
 その第1弾に近いのは、私が所属する東京藝術大学の奏楽堂というとても大きなホールでやった天井の耐震補強です。その時に文科省の方から、「これをテストケースに全国にあるホールの天井を補強していくので、現実的にどのようにすべきなのかを考えてほしい」と言われました。そういう意味では、古いから新しいからということではなく、東日本大震災以降に吊り天井の基準が見直されたので、ぶら下がっている天井は全般的に見直しが必要になります。八幡市民会館の場合、客席上部の天井(写真11)は構造体から吊られていますが、屋根の形とほとんど同じ形です(図3)。

写真11
写真11 八幡市民会館曲線を描く天井
図3
図3 八幡市民会館断面図

この手のタイプは天井が構造体から長くは吊られていません。構造体から長く吊られている天井の場合、補強が難しいことがありますが、八幡市民会館はこれに当てはまらないので、それ程補強は大変ではないと思います。

【参加者】
 先ほどの話にあったように、建物がどのくらい愛されているかを測ることは、なかなか難しいと思います。八幡のように村野さんが設計した3つの建物が、このような密度で建っていること、1人の建築家が都市に対して提案をして、それが形となって残っている状態がとても貴重だと思います。
 ですから、八幡市民会館と八幡図書館を別々に考えるのではなく、1つのまとまりとして捉えることに特別な価値があるのではないでしょうか。そのような貴重さも、愛されるということに繋がると思います。今後も1つのまとまりとして残すことを考えるかどうかが、八幡の持っている価値を大きく左右するのではないかと思います。

【金田充弘】
 構造に関して、建築基準法自体は絶対の安全性を担保しているわけではなく、社会のコンセンサスのもとにできている相対的な基準でしかありません。そういうことも含めて、単に技術的な判断だけではないというところが、面白く難しいところです。どれくらい愛されているのか測りにくいように、どんな基準で残すのかというのは、どれくらいの熱意で残したいのかがかなり関わってくると思います。

【参加者】
 2016年3月に機能を停止して取り壊すことが予定されている八幡図書館についてですが、私は非常に残念だなと思っています。図書館は、新病院の計画上、非常時にアクセスの妨げになるという理由で取り壊されるのですが、その理由に疑問を感じています。なので、病院局に八幡図書館を取り壊さなければならない理由をもう一度出して欲しいと提案していますが、未だにその返事が来ません。
 改めて、八幡図書館は取り壊す必要がないという証拠を見つけていきたいと思います。しかし、議会も含めて一度決めたことを行政がひっくり返すのは大変なことだと、覚悟してやっていかないといけないかなと思います。
 また、八幡市民会館については、今後の活用案を全国的に公募しまして、今その検討を致しております(※6)。ゆとりがある街でしたら良いアイデアを考えて、それを実現してほしいと市に提案する、それで済むわけですけども、やはり北九州市は非常に財政的に厳しい場所ですので、提案するだけでは市は頷きません。
 提案をするには、その提案の中身が優れたもので市民に認められると同時に、その提案が実現できる運営主体あるいは財政的裏付け、そういったものを民間が見つけて一緒に提案しないと、市としては残せないというのが現実のところです。従って私どもは全国から集まった70ぐらいの活用案のうち、優秀なものを20ほどに絞り込んで、活用案を運営してもらえそうなスポンサー、そういった企業なり団体なりを見つけることに今尽力しているところです。

【金田充弘】
 おっしゃるように、やはり事業性というところを無視したアイデアだけではなかなか難しいと思います。尾道のケースも、地元の街を活性化したいという思いがあって、お金を出しています。常石造船の親会社が作った会社が、間接的にですけども事業部隊として入り、そこは当然事業ですからちゃんと経済的に回っていくという仕組みがあって実現したものです。企業や団体の参加を得て事業性のあるアイデアを提案していくことが、建築を残すための力として重要ではないかと私も思います。


小川 次郎/おがわ じろう
建築家。常に実験的な試みを行い、その場所の空間性を巧みに利用した、迫力のある作品を展開する。突如として現れるユニークな構造物は、場所の風景を変容させ、新たな魅力を引き出していく。越後妻有アートトリエンナーレ(2003/2006/2009/2012/2015)などのアートのプロジェクトも手がける。


曽我部昌史/そがべ まさし
共同で設立した建築事務所「みかんぐみ」おいて、住宅、公共施設などの設計や展覧会の構成デザイン、プロダクトのデザインなどを手がける。特定のコミュニティとの関連に重点を置いたプロジェクトに参加、またアートの展覧会にも出品するなど、建築の新しい領域を切り開く。


宮本 佳明/みやもと かつひろ
阪神・淡路大震災で、前回した生家を再生した「ゼンカイハウス」を始め、建築を取り巻く既存の制度にとらわれることない在り方を提案し続ける。共同出展した1996年にヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展では、日本間に被災地のがれきを持ち込んだ作品で金獅子賞を受賞。


※6 市民を中心に八幡市民会館の保存活用を目指して活動している八幡市民会館リボーン委員会では、2015年1月に今後の八幡市民会館の活用方法を提案する「八幡市民会館リボーンアイデア募集」コンペを開催した。


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