CCA建築ワーク・ショップ 五十嵐太郎氏
「建築/アート/リノベーション」
五十嵐太郎氏x笠原一人氏x倉方俊輔氏
「八幡市民会館の可能性と、北九州の未来」

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「建築シティ」北九州

【宮本佳明】
 先程倉方さんにもらった提言で面白いと思ったことは、北九州自体が「建築シティ」であるということです。確か五十嵐さんもリノベーションアイデア提案の中で、北九州であれば建築トリエンナーレやビエンナーレを開催することが可能だと言われていたと思います。そのあたりについてちょっとお話しいただければと思います。

【五十嵐太郎】
 確かに北九州市には素晴らしい建築が多く、『建築マップ北九州』(※12)も刊行されています。これは東京版が出版された後、大阪や京都よりも先に北九州版が出版されたことからも明らかです。ちなみに、東海版をリクエストしたところ、却下されたことがあります。

【宮本佳明】
 倉方さんは昨年、この同じ建築ワークショップのレクチャーで、大阪では一部の時代の建築を欠いているので、近現代建築史を通して語れないと仰っていましたね。それができるのは東京以外では北九州しかないと。

【倉方俊輔】
 3年前に、甲斐みのりさんという建築が好きな女性の文筆家の方と共著で『東京建築 みる・あるく・かたる』(※13)という本を出版しました。その第2弾で大阪建築を見て歩いて語るという企画を、今度は作家の柴崎友香さんと二人で行って、それも本になりました(※14)。次にもし第3弾ができるとすれば、それは北九州でないかと。北九州を全体として見ると確かに北九州らしさがあるんだけれども、その中に例えば八幡らしさとか、小倉らしさ、門司らしさ、戸畑らしさ、若松らしさ、といったものがある。元々独立していた5市が合併して成立したために、全体としてまとまりを持ちながらも、それぞれの街が地理的にも歴史的にも個別の豊かさを備えている。それは、北九州市の非常に大きな特徴であり、魅力です。
 日本では産業遺産と建築が別々に語られることが多々あります。先ほど挙げたような本で私が行いたいのは、それらを繋ぐことです。街角に立って、建築家の作品と民家や産業遺産を、同じ視点で考えていきたい。なぜなら、目の前にある建物は、作家性があるかないかの違いがあるだけで、歴史的には同じ背景の中でつくられてきたからです。北九州はまさにそのような視点が欠かせない都市であって、戦後まもなくの八幡の街にこのような戦災復興計画を実現できたのは、それまでの産業遺産が豊かだったからです。

クリエイティブな保存と継承

【宮本佳明】
 笠原さんと五十嵐さんから先程、美術館に転用するのが良いという提言をいただきましたが、空間的にはあの市民会館をどのように使っていったら上手くいきそうかというあたりで、自由に発言をいただければと思います。
 私自身は、そもそも今後はホールとして機能させないのであれば、必ずしもこの大空間をこのままの形で保存する必要はないと思っています。もし美術館に転用するのであれば、例えば一回り小さいホワイトキューブがあの大空間の中に散りばめられて耐震補強として機能するといったストーリーも考えられると思います。

【倉方俊輔】
 著名な建築家の作品を大胆にリノベーションやコンバージョンをして成功した事例は海外でも少ないため、日本発の新しい発信ができるという点に興味があります。
 20~30年前では建築を残す方法として、昔の玄関や部材を再利用しつつ、壁1枚を残したファサードの後ろに超高層ビルを建てていました。しかし、過去の建築に敬意を払って、歴史的な重層性を残しながら行う保存・継承の方法というのは、思考停止状態のままではいけないと思います。
 リノベーションやコンバージョンというのも1つの創造行為である以上は、建築が進化していくのと同じように、「確かにこれは21世紀の新しい保存・継承の仕方だ」と言えるクリエイティブなことを行っていくという方向性もありえます。機能を転用するということであれば、必要とされる空間は異なっていきます。八幡市民会館にしかない「村野らしさ」を、いかに残しながらコンバージョンしていくのかが重要だと思います。

【笠原一人】
 現代美術は、かつてのように絵を掛けるだけではなく、非常に立体的で巨大な作品が増えていますので、きっとあの市民会館のホールの大空間が活きると思うのです。既存のホールの空間をうまく使えば、すごく良い条件で現代美術館がつくれるわけですよね。細かく区切れば小さくも使えるし、大空間としても使えるし、自由がきくと思うんです。
 村野さんのオリジナルデザインも感じられて、そこに新しいものが重なっている、そういう作り方が良いと思います。重ね合わせられた歴史が堆積して、モダニズムの著名な建築家のものだけれども、そこに新たな意味が重層するわけです。コンバージョンによって、今までにない世界に誇れる建築になるのではないかと思います。

【五十嵐太郎】
 八幡市民会館は補強を行う必要があります。したがって、個人的な希望を言えば、アート系のコミッションワークを行うことで、結果的に補強の一部となれば、世界的にも珍しい事例になると思います。構造がアートになるわけですね。例えば、アーティストの青木野枝は、空っぽになった小さな木造の美容院に、鉄のリングが繋がりながら広がっているインスタレーション(写真7)を挿入した作品をつくっています。

写真7
写真7 青木野枝のあいちトリエンナーレ2013の出展作品「ふりそそぐもの」。旧あざみ美容院の内外に、鉄製の輪を配置したインスタレーション。

これを見た時、この作品は実質的に建築を補強していると思いました。老朽化した木造の建築が鉄のリングで強化されたわけです。そのように、八幡市民会館では、おそらく誰もしていないことを挑戦することに、意味があると思います。

【宮本佳明】
 私も、青木野枝さんのいくつものリングの作品がまるで木造を補強しているように感じられて、建築家としてとても興味深く拝見しました。何か「ゼンカイ」ハウスみたいだと思いました。
 もう残り時間があまりありませんが、最後に一言ずつコメントをお願いできますでしょうか。

【笠原一人】
 繰り返しになりますが、村野さんの建築は、通常やらないようなデザイン上のテクニックを駆使することで、様々な両義性や建築的秩序の矛盾が生み出されているのが特徴です。この方法は、現代建築の方法にも通じます。近年、建築のあり方やデザインが総合的に再検討されていますが、村野さんの建築はそのためのヒントがたくさん詰まっていて、未来の建築の「サンプル」になり得るような存在だと思います。この八幡市民会館もその1つです。そのような普遍的な存在として今後も保存され活用されて、後世に伝えられるよう願っています。

【五十嵐太郎】
 八幡市民会館の残し方としては、これまでホールとして多くの公演やイベントが行われてきたのだから、具体的にどう使われてきたのかという記憶が、リノベーションやコンバージョンを通して伝わってほしいなと思います。
 参考例として、福島県南相馬市で原町無線塔という200mもある大きなコンクリートの塔を取り壊した後に、地域の人々が初めて「あれは町のシンボルだった」と気付いたことを契機に、代わりに思い出のある朝日座(※15)という映画館を残す活動が起こりました。もし、どうしても図書館の解体が免れ得ないのでれば、それが市民会館を残す積極的な動きに繋がればよいと思います。

【倉方俊輔】
 「市民会館」という概念は戦後に定着しました。確かに本来、これだけ民主的な建築はないとも言える存在です。「私たちの建物を、私たちの税金でつくった」という建築です。つまりは公共性がある。それに応えたデザインを村野さんはしています。ですから改修するにあたっては、ぜひ「私たちの建物だ」と思えるようなリノベーションやコンバージョンをしてほしいと思います。

 
倉方俊輔/くらかたしゅんすけ
建築史家。1971年東京生まれ。大阪市立大学大学院准教授。早稲田大学大学院博士課程満期退学。伊東忠太の研究で博士号を取得後、著書に『ドコノモン』『吉阪隆正とル・コルビュジェ』、共著に『生きた建築 大阪』『東京建築 みる・あるく・かたる』『大阪建築みる・あるく・かたる』『建築家の読書術』、監修・解説書に『伊東忠太建築資料集』などがある。

 
笠原一人/かさはらかずと
建築史家。1970年兵庫県生まれ。京都工芸繊維大学助教。京都工芸繊維大学大学院博士課程修了。近代建築史・建築保存再生論専攻。共著に『近代建築史』(昭和堂)、『関西のモダニズム建築』(淡交社)、『村野藤吾のファサードデザイン』(国書刊行会)、『村野藤吾の住宅デザイン』(国書刊行会)、『村野藤吾の建築−模型が語る豊穣な世界−』(青幻舎)ほか。

 
※12 『建築マップ北九州』(TOTO出版)
『建築MAP東京』『建築MAP京都』に続いて刊行された。北九州市の240の建築作品を写真・データ・解説付きで紹介するガイドブック。建築作品だけでなく、文化施設・史跡・土木施設なども掲載している。

 
※13 『東京建築 みる・あるく・かたる』(2012年 京阪神エルマガジン社)
建築史家・倉方俊輔氏と文筆家・甲斐みのり氏が案内する、建物と東京を楽しむお散歩ガイド。

 
※14 『大阪建築 みる・あるく・かたる』(2014年 京阪神エルマガジン社)
『東京建築 みる・あるく・かたる』の第2弾として、倉方俊輔氏と柴崎友香氏が大阪の建築を紹介する。

 
※15 朝日座
1923年に芝居小屋として地元の有力者らによって開設される。歌舞伎や映画だけでなく、住民の各種行事の発表の場としても活用された。


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