市民美術大学 特別講座 
「美術界の話をしよう 1」非公開ディスカッション

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2018年6月16日 市民美術大学 特別講座「美術界の話をしよう」
非公開ディスカッション

秋元雄史(東京藝術大学大学美術館館長/練馬区立美術館館長)
伊東正伸(国際交流基金ジャポニスム事務局 部長/審議役)
水沢勉(神奈川県立近代美術館館長)
建畠晢(多摩美術大学学長/埼玉県立近代美術館館長)
中村信夫(現代美術センターCCA北九州 ディレクター)

中村信夫

美術界の話はいろいろあると思う。ギャラリー、行政、美術館、美大、教育関係や国際展、世界の美術界の話もある。30年ほど美術界に携わってきて、はっきり言えることは、美術界がマーケット中心で動き始めたこと。それが美術館や大学など、すべてに影響を与えているところもあるよね。
例えば2013年カタールの王女(首長の妹マヤサ・ビント・ハマド・ビン・ハリファ・サーニ)は、年間約10億ドル(約970億円)を美術に費やし、ロシアの富豪も現代美術の財団や美術館を設立してますよね。中国には何千という美術館が建設される中、そのうち1000を超えるプライベートの美術館があるといいます。でもそういった活動は、すべてがアートそのものから出てきたわけではなくて、経済との繋がり、つまりマーケットがその発端の一つにある。そしてヨーロッパでは長引く不況から文化予算は削られ美術館の運営は難しくなり、お金のあるところ、つまりはマーケットの動向に頼るようになった。日本国内に目を向けてみると、同じようにかなりマーケットで動き始めている。「リーディング・ミュージアム(先進美術館)」もその流れで出てきた話でしょう。80年代にあった美術館ブーム、その後ちょっと美術館がキツくなって複合施設をつくりはじめ、指定管理だとか独立行政法人という形にして、なんとか地方の負担を和らげて民活しようかって話になり…それも失敗というか、うまくいっていないよね。

建畠晢

まだ進行中だから失敗とは言い切れないね。問題を抱えてはいるが。

水沢勉

問題は山積とは言っても、失敗とまでは総括できない。

中村信夫

そんな中で地方のアートフェア、アートイベントが地方の美術で町づくり、町おこしのようなブームになったわけです。それもピークは過ぎた感じかな。

伊東正伸

そういったアートイベント的なものは、今や全国で100件以上あるという記事もありましたけど、呼び名もアートプロジェクトと言ったり、芸術祭と言ったり、ビエンナーレやトリエンナーレとするところもあります。特に定義があるわけではないので、正確にカウントするのは難しいんです。

建畠晢

国際芸術祭と名づけるものが多いけど、増えてるね、美術に限らず。

伊東正伸

パフォーマンスもありますからね。

建畠晢

静岡の大道芸ワールドカップin静岡とかね。静岡と豊島区は演劇が中心なんです。美術館よりも劇場のほうが強い。今度劇場が3つぐらいできるんです、東京オリンピックに合わせて。区立がそれ以外に3つぐらいできる。静岡もSPACを擁する芸術劇場がある。

中村信夫

そういう流れの中で、この30〜40年間感じてきたことを話していきましょうか、僕は25年ぐらいだけど(笑)。

建畠晢

僕は美術館に入ったのが29歳。その前も『芸術新潮』にいたから、美術にかかわっているといえばかかわっていたけど。今70歳だから41年か。

伊東正伸

僕は毎日新聞社経由で国際交流基金に入りました。合わせて34年です。

水沢勉

美術館ということでは僕がいちばん長いのかな。25歳で鎌倉(神奈川県立近代美術館)入ってるから40年だよ。同じ場所で40年。

中村信夫

今後地方の美術館の活動はどうしていったらいいかな。国立以外の美術館はかなり財政的に厳しい状況にあるけど。

水沢勉

地方の公立美術館なんて、500万円で1つの展覧会やるんだからね。

建畠晢

いい展覧会やってるのにお金がなくてカタログつくれないところもあるし。

中村信夫

企業にサポートしてもらうとか?

水沢勉

直接、自治体が特定の企業からサポートしてもらうにはいろいろ調整が必要ですね。

中村信夫

将来というか今後、美術館なら美術館、美術教育なら美術教育、女子大化してるような大学は今後どうなるのとか。

建畠晢

大学の話はどうしても内部になっちゃうね。

秋元雄史

藝大もそうかな。

建畠晢

藝大は最近すごいポジティブですよ。

秋元雄史

国際化というのが一つのキーワードになっていて、ロンドン、パリ、シカゴ、北京などの有名な海外の美術大学との提携事業、交流事業など、いろいろなことをやっていますね。そのための教授陣も揃えてきた。

建畠晢

様々な人材が集まっていますよね。アーツ前橋館長の住友文彦さんとか、長谷川祐子さんとか、辞めちゃったけど飯田志保子さんとか。意外な人材なんですよね、これまでにあったような、大学に籍を置く人とはまた違った立場の人たちを積極的に迎え入れている印象があります。客員教授なのかな?

秋元雄史

ちゃんと教授ですよ。ゼミを持って授業をしています。専門性が高くなる大学院で教えておられますね。

建畠晢

任期はあって、いろんな人材を登用して入れ替えていく部分と、がっちり維持する部分とを両立して、それが広がってる。こういう話は内部の話かな。

秋元雄史

内部にいないと分からないもんね。

水沢勉

美術展に関して言えば新聞社の話になりやすい。

建畠晢

今は埼玉県立近代美術館も新聞社の協賛はほとんどない。

伊東正伸

新聞社にとっては、今はもう国立の美術館、博物館だけが対象になっている感じですよね。

中村信夫

じゃあどうしてるの?

建畠晢

自前でやるしかない。だからすごいキツいんです。それでも埼玉はまだ展覧会予算がついてるんだけど、ついてないところも多いよね。

水沢勉

学芸員が優秀でも、そうなってくると大変ですよね。

建畠晢

苦労しながらもいい展覧会をやってると思うんですが、美術館によってはカタログがつくれないから、来場者以外にはアピールできない。

水沢勉

暗い話ですね。でもそういう現実があるということも、今の公立美術館の一つの現状です。

秋元雄史

国立美術館はまだ予算もあるのではないかと思うのだけど、地方美術館や小さな行政単位の美術館はほんとうに厳しいのではないかと思いますよ。新聞社がついて大きな予算が動かせるところと自前で少ない予算で展覧会を組むところとでは、規模も内容も全く違ってきている。

水沢勉

非対称的な構造になっている。

建畠晢

逆の問題もあるんだよ。日本にはMoMAとかテート・モダンみたいな圧倒的な力を持ったセンターがないんです。オリンピックを機にそういうものを立ち上げる話が出ると思っていたけど、出ないよね。強力な館が一つはあったほうがいい。

中村信夫

横浜トリエンナーレも、日本から海外に向けて発信する国際展として続けていけばよかったのにね。

伊東正伸

ハブになるような大きいものが日本にはない。それは国際展に限った話ではなくて、美術館にしろ、劇場にしろ、突出したところがなくて横並び。いい意味で言えば民主的かもしれませんけど(笑)。


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