東近美(国立東京近代美術館)に他の美術館は倣ったということもある。その結果みんな同じような規模になった。予算よりも、人数がいちばん分かりやすいと思うんですが、MoMAで働く人は何百人、ポンピドゥー・センターはそれよりも多いです。東近美は数十名で、国立国際美術館は10数名ですよ、事務系は3人しかいない。スタンダートとしての美術館が、神奈川県立近代美術館やブリヂストン美術館、東近美とかですから、そのどこかに近い規模になるという問題がある。
もう一つ面白いのは、今集客力がある美術館と言えば、金沢21世紀美術館、富山県美術館、国立新美術館があると思うんだけど、みんな館名から「近代」を外してる。兵庫もそうだけど、兵庫県立近代美術館、富山県立近代美術館の「近代」を外したんですよ。「近代美術館」というスタンダードが変わってきた。いいか悪いかは別として、「近代」を館名から外した美術館が、拡張して、集客力においても企画力においても成功したんだよ。近代美術館というスタンダードは、一斉にではないにしろ次の世代には受け継がれず、消えていくと思う。滋賀県立近代美術館も、新しくなったらたぶん近代外れると思う。個別に見れば、それぞれ背景には違う事情があるはずですが。もちろん金沢の成功は大きいけれども、新しく美術館をつくり直すときにみんな「近代」を外していることは面白いなと思った。次のスタンダードは見えてないんだけど。
「現代」とぶつけるわけ?
なんでもできるような状態にしておく、間口を広げるような名前ってことですよね。
単純にいえばアニメなどもやりやすい。
もちろん警戒すべきこともあるし、新しいスタンダードが確立していくようだったらいいことへ繋がる可能性もある。ネーミングに伴う問題、近代美術館とは違ったスタンダードがまだ確立されてないけれども、それは危険なことであると同時に、非常に興味深い。例えば今度できる大阪の美術館は、準備期間中の仮称は「大阪市立近代美術館」だけど、館名の検討委員会が進行中だけどどうなるのか興味深いよね。
これからは、「スタンダード」はできずに、多様性がでてきて、いろんな形の美術館が出てくるんじゃない?
大阪の新しい美術館は、ジャンルの話は今の段階出てるのかな? 学芸員としてはどこまでジャンルを広げるかって大事だよね。
大阪はコレクションがすごいんです。ロシアアヴァンギャルドや、具体もある。具体の資料も吉原治良さん吉田稔郎さんの遺族が一括寄贈ましたから。そういった意味では、典型的な「近代」美術館なんです。その性格は変えないでしょうね、最大の特長だから。しかし館名を話し合うことになったのは、やはり新しいスタンダードを持ち込もうということがあるんじゃないかな、意識的にそうしようとしているかはわからないけどね。今後の美術館は今までのスタンダードと違うものが必要となってくる、そのテストケースになればいいなと思ってます。このコレクションをどのような切り口で活用していくかは重要ですよ。ただ開館に向けていろいろありますし、行政のことですから、何が起こってもおかしくないし安心できないところもある。
建物優先で80年代から来たじゃないですか。コレクションが充実していて、ネーミングがきちんとなったら、何とかなるんじゃない。
日本の美術館は海外との繋がり、国外とのネットワークという点で弱いような気がします。その課題にはこれからどうやって向き合っていけばいいでしょう? アジアが今すごく盛況なのは、もちろんマーケットもあるんですけど、海外との繋がり、ネットワークがすごいんですよね。
美術館の中に海外の美術館との交渉や共同作業に慣れた人間がどんどん増えないとね。これから国際的な活動を目指すんだったら必要なことだと思う。そういう美術館が、これからは増えなくちゃいけないでしょう。そのとき学芸員はどうするのか。
全国美術館会議は、そこに集まる389館の館長が全員日本人なんです。学芸員もほとんど全員日本人だよね。森美術館は初代館長は海外の人で、スタッフやキュレ―ターもかなりの割合で海外の人がいたけど、今は誰もいなくなっちゃった。日本の美術界ではガラパゴス化が進んでる。中国や韓国行くとそうでもないのに。外国の資本でつくった美術館もあるから館長が外国人とか。韓国は国立美術館の館長がスペイン人でしょう。
新しい現代美術館、バルトロメオ・マリだよね。
シンガポールの国立大学のアート・センターのディレクターも、ウテ・メタ・バウアーだよね、ドイツ人。
他のアジアに比べても遅れをとってる異常な状態なんだよ。こんな国ないですよ。韓国にも中国にもこんなことない。そのことに対して誰も疑問も危機感も持たないし、僕が話すといつも「そうだね」で終わる。
日本では、一回限りの国際展であれ、ディレクタ-はどこも日本人が務めている。そろそろ海外の優れた人材も登用しないと。
それは考えなくちゃいけないことだよね。選考委員に選ばれたときは必ずそれに触れるんですけど、難しいんです、いろいろな壁がある。契約概念てほんと大変なんですよ。何かあった時の責任の所在とか、やはり行政や既存のシステムでは対応しきれないことがいろいろあって、最終的には候補に挙がらないんです。名前を何人も出したこともあるんですけどね。
ヴェニス・ビエンナーレの日本館のコミッショナーとか、たまには誰か一緒に海外の人間とやってもいいかもしれない。中国にも圧倒的に追いついていないし、タイやシンガポールにも全然歯が立たない。
活動内容ではなくて、なぜマーケットの盛況ぶりだけ海外の状況に追いつこうとするのかが謎ですね。
東アジアのスタンダードに比べても多様性がない、特殊な状況に置かれている。
何とかしないとこのまま閉じてっちゃう。
苦し紛れだけど、遅ればせながらグローバル化しようっていうのが、いちおう日本の文化行政の姿勢だと思う。
国際展が一番やりやすいところだと思うんだけど、逆に壁を実感してしまう。
どこかでやればいいのに。
それがなかなかそうはいかないんんだよね。難しいのもわかるし、行政の言い分も理解できる、それで委員会のほうもそれを受け入れて、そのままになっちゃう。
大学の場合もそういう話があって、藝大は今すごい海外の学生が増えてますよ。
大学はまた違うんですよ、今強制的にそうしているところがあって、大学に言っては何割って決めてるの、決めないと増えないから。
男女比もそうだよね。
強制的にやらないと変わらない。