市民美術大学 特別講座 
「美術界の話をしよう 1」非公開ディスカッション

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中村信夫

日本全国、全部ての美術館が予算削減に向かってるでしょ。増えてるところはないよね。

建畠晢

国立は増えてるかな。美術館が減らされているっていうより、一律削減の対象になって、年間何%減らすとかになってる。

中村信夫

でも金沢は増えてるでしょ。

水沢勉

人数も増やしているのではないでしょうか。

中村信夫

学芸員増やしても、そんなに展示のスペースないでしょう。

建畠晢

金沢自体が、外国人を含めて人気が出てるから、21美ができたおかげもあるけど、相乗効果で。島(敦彦)さんうまくやってるんじゃない?

山田彩子

1日に何千人も来ることが想像できない。年間来場者数延べ260万人て言ったらそうですよね。

水沢勉

入るだけで何十分待ちみたいですね。チケット買うだけで行列ができている。

建畠晢

無料ゾーンにもいっぱい来るし。昨年オープンした富山県美術館も、屋上に空中庭園の児童公園をつくったんですが、そこに子どもがたくさん来るそうです。金沢の成功を見てやったんだろうけど、それなりに成功した。開館してしばらくたってるから、少し減ってきたそうだけど、そんなには減ってないみたいよ。県外から来る人も多いみたいで。金沢も観光客が非常に多い。

伊東正伸

東京から新幹線でアクセスしやすいのも起因していますよね。海外からの観光客も劇的に増えていますし。

水沢勉

展示室もかなり広くて、相互のつながりをうまくやった。成功した例だと思います。ロケーションもそんなにいいわけとは思えないけれども、車で来る人の多いようです。

秋元雄史

富山は車社会なんです。ポジティブな話が見つかりましたね。

中村信夫

北九州はどうだろう。この地域の人たちが関心のあることって何かな。

水沢勉

地方の場合、町全体にウケるということは重要かもしれない。町全体に対して、どうやって体制をつくるかといったものがあればいいかもしれない。

中村信夫

ここはそういうものはないですね。3年とか5年、10年計画で文化全体を組織立てて、これからどうしていくかという指針のようなものがあればいいんですけど、そういう筋の通ったものはなく、イベントばかりで実際何やってるか全然分かりませんね。

水沢勉

イベントの弊害はすごくある。その分をもっと丁寧に、組み合わせをつくればいいと思うのですが。

山田彩子

イベントの方が市民にわかりやすいですしね。

水沢勉

その代わりすぐ忘れる。
自分も神奈川県立近代美術館という、地方の美術館にずっといるわけですが、地方の美術館の多くは、80年代に構想されたもので、その先行事例であった美術館だと思う。初代副館長を、後に館長を勤めた土方定一は、もっと実質的に国際的な美術館を思い描いていたけれど、戦後という状況ではそれは難しかった。そして高度成長期を迎え、箱モノ行政に傾く80年代の美術館建設ラッシュを迎えるわけだけれど、ソフトの部分をもう少し丁寧に、それこそ重なり織りなしていくようなプログラムにすれば、既存のものも利用しながらできたのに、美術館だけポコンと上から舞い降りてくるようにつくり過ぎたんじゃないかっていう感じはしますね。

秋元雄史

僕は企業の美術館から金沢21世紀美術館に行って、この2つだと違いはもちろん色々あるし、運営母体の違いは大きいんだけれども、それ以上に、その美術館がどのような地域にあり、どんな文化や伝統、歴史をもった場所にあるのかというは、運営をする上で考えていく必要があると思うね。というか私自身がそれを気にしつつ2つを運営してきたというところがあって、町の規模や歴史によって、美術館の在り様はずいぶん違ってくると思う。それがその地域の中でどんな役割を果たすかを考えるきっかけになる。

水沢勉

僕も、鎌倉・葉山という地域性の問題は考えていきたい。

秋元雄史

国際交流基金の活動の詳細って、一般の方は知らないことが多いんじゃない?

伊東正伸

はい、もっとPRしないと。国際交流基金の活動は、海外で実施する事業に重点化していることが響いているように思います。日本のプレスは、海外で行なわれている事業はあまり取り上げようとしないので、国内ではなかなか話題に上がらないきらいがあります。

水沢勉

国内での活動を減らしてしまったからね。国際交流は、双方向的なものであるべきなのにね。

中村信夫

地方美術館が近代美術館とは違った形になってきて、新しい美術館の名前には「近代」とつかないという話が出ましたよね。ステレオタイプの近代美術館のパターンじゃなくて、館の特性を活かすような方向で個性化していくのは望ましいことだと思います。コレクションを考えて、例えば大阪の新しい美術館は具体に焦点を当てるとか、金沢の場合は工芸に焦点を当てるとか。観光都市としても成功しているけど。

水沢勉

富山はデザインや工芸も打ち出している。

秋元雄史

そうだね、オープニングの展覧会がポスター展だもの。

建畠晢

近代美術館のスタンダードは、東近美と神奈川近美がつくったわけだよ。それに倣っていろんな美術館ができて、それはそれで大きな成果を上げて、美術館のシステムは定着してきたけれども、それとはまったく新しいタイプの地域の特性を活かした新しいタイプの美術館ができて、それぞれ全然違う。

中村信夫

地域の特性を活かすっていうのも、ちょっと危険かも。何でもありになっちゃう。(笑)

水沢勉

圧倒的な存在感のある、一つの中心的な美術館があるといいんじゃないかな。実際できるかどうかはともかく、アイディアとしてでも議論があるといい。神奈川近美にしても国立近美にしても、もうああいう形のものをこれからさらに作ろうというのは無理な話ですよね。全く新しい発想を持たないと未来はないように思います。

山田彩子

アジアの国々は、どこがアジアのハブになるのか、中心地になるのかパワーゲームをしているところがありますね。大きい美術館を作ったり。

水沢勉

その中心がないから、大きいものをボンとつくれるかもしれませんね。後発であることの強味があるように思えます。

建畠晢

面積だけの話じゃないけれども、韓国の国立現代美術館の新館とか、何万平米もあるし、香港のM+(エムプラス)も壮大な構想がある。内容がないっていう批判はもちろんあるけど、中国や韓国の公立の現代美術館行くと、とにかく大きい。

中村信夫

そう、大きすぎたね。それから組織的なことで言えば、キュレーターやディレクターがよく変わったり。日本は何十年でもいられる。それがいい悪いは別として、いい面もあるかもしれないよね。いつ退職するかわからない状態であれば、その間集中して、自分の実績を残して、次の場所を見つけるためにも何か評価を得なくちゃいけない。日本の場合は全然そんなことないから、長期のプランが立てやすいはず。それをあまりやってないところに問題がある。

秋元雄史

長期で雇用してもらえるという組織のあり方が日本の場合あまりよく作用しなかったのかな? 帰属意識もそれほどないのではないのではないかな?

水沢勉

どこか中途半端だよね。

建畠晢

東近美は日本の近代のコレクションの蓄積が厚いけど、若いキュレーターはどちらかというと新しいことに目が向いている気がする。

水沢勉

現代美術やデザイン、建築ですね。

建畠晢

すると、やはり美術館のコンテキストからはずれることもあるよね。

水沢勉

でも建築部門は設けないわけでしょう。コレクション持たずに企画展だけというのは、どうなのか、という問題点がありますね。

中村信夫

空回りになるよ。

秋元雄史

でもそういうのを提案しても、絶対ウケないわけですよ、スペースもないし人もいないから。建築部門つくらないって言うけど、文化庁が中途半端にやるんだったら、東近美に建築部門を設けたほうがいいと思う。東近美はジャンルというか、カバーするものをもう少し広げてやらないと、近代美術の広がりに対応していけないのではないかと思う。

水沢勉

日本の近代を横山大観で代表させてやってほしくはないですね。あれだけの予算をかけて。

秋元雄史

日本画だけは常時、人数稼げるから。

水沢勉

独立行政法人としての業績のためにやってるかな。

伊東正伸

生きている現代アーティストの個展はなかなかやらないですよね。東近美は日本最高峰の美術館の一つとして認識されていて、そこで個展を開催することを目標にしているアーティストって、多いわけじゃないですか。そうした期待に応えるだけでなく、海外からの来訪者に現在進行形の日本のアートの最高水準を示すためにも、現代アーティストの個展を継続的に行なって欲しい。

中村信夫

東近美じゃなくたって、MoMAやテートでもいいんじゃない?

水沢勉

最近インターナショナルに活動しているアーティストたちの関心はそっちですよね。

伊東正伸

それはそれでいい流れですけど、アーティストの目標となるような発表の場がやはり日本国内にもないと。

建畠晢

60年代ぐらいまではわりとMoMAで日本の現代美術展開かれたのに、70年代はじめぐらいからまったく取り上げられなくなった。まったくマーケットにも乗らないし、現代美術展も開かれなくなった。ところが80年代終わりぐらいから定着してきた。しかもその人たちは河原温や荒川(修作)と違って、基本的に日本にいて、必要なときだけ海外に行く。情報発信の方法が変わったので、べつに東京にいようと関西にいようと日本にいようと関係なく、必要な所でやるようになった。それでも評価は定着してるし、新しい人材の評価も出てくるようになった。そういう意味では、べつにセンターに立ったわけではないけれども状況はよくなってるよ。ほんとに一顧だにされなかったからね。ファッションであれだけスターを出して、建築もこれだけスーパースター出したのに、なんで美術界から誰も出てこなかったのか? 取り上げられなかったのか。そういう状態が80年代半ばぐらいまで続いてた。

中村信夫

海外の美術館の戦略によるところも大きいよね。アート自体が、現代美術自体が非常に強いマーケットの一部になってきたわけじゃない? 日本や中国の現代アート作品を買っている富裕層のコレクターが美術館の理事に入るようになって久しいし、その影響から東アジア専門、日本専門のキュレーターを雇ったり、そういう部署を作ったからね。それから、美術史の見直しもあるよね。グローバリズム以降、これまで西洋中心だった自分たちのコレクションのギャップをうめようと、非欧米圏のアートの見直しを始めてる。日本の近現代美術だけではなく、アジア全体の近現代美術への関心は、マーケットに影響を与えている富裕層の力がかなり大きいよ。

建畠晢

MoMAはアーカイヴをつくっているよね。日本の現代アートのソースブックも作成しているし。日本はどこもだしてないけど。

伊東正伸

MoMAは、非欧米圏の近・現代美術についてのソースブックを英語で出版する事業を継続的に行なっていて、建畠さんや国際交流基金も協力して日本の戦後美術批評をまとめた本も数年前に出版されました。これまで英語にされていなかった重要なテキストや座談会記録などが初めて英語に翻訳されています。展覧会は一過性ですが、こうした内容の本の出版は、海外における日本美術研究の基礎資料として、今後長く読み継がれていくことになり、重要な意味を持ちます。

中村信夫

日本の近現代美術やグループを取り上げた展覧会が増えているけど、それはあくまでも自分たちのコレクションの穴埋めであり、日本やアジアの作品をコレクションしている理事メンバーの力でもあり、そこからのマーケットの中の位置づけの変化、つまりは美術館の資金確保の戦略の一つでもある。日本の近現代アートが正当な評価を得たから、と短絡的には言えないよね。

建畠晢

それぞれの国が自国の戦略としてやることで、否定できないんだよ。日本だってそれをやればいい。一般化しちゃうと、今度の声明書にも関わるんだけど、欧米ではそんなことしてないってみんな言うわけだよ。

中村信夫

日本の国内で国際的だ、マーケットだ云々言ってる間に、欧米の美術館もアジアの美術館も、世界を見ながら自分たちの戦略をすすめて、日本はあくまでもそのターゲットの一つ。その中で日本はどうなるんだろうね。

水沢勉

マルチ・カルチャリズムというのは欧米が生き延びるための手段だから。

秋元雄史

本音と建前が必要で、美術館はやはりアカデミックな場所として存在しているわけだから、ある客観性や普遍性が必要なわけで、どこかで世界の潮流を意識しつつ、うまくそれに対応しながら、一方で自分たちのスタンスを含めて言いたいことを言わないといけないんだろうけれどもね。

中村信夫

欧米の美術館だって、予算を得るにはかなり画策しているわけで、そういうところで作品の売買には関わっていることもあると思うけど、ただそのままストレートにやってるわけではない。そうした案件をうまく扱うために、弁護士やマネージメントに長けた人たちがスタッフでいるわけで、企業のようなもの。ただ日本では、そこまでして美術館を何とかしようと思っている館長はいないよね。

秋元雄史

そういうマネジメントの発想もないといけないですけどね。

中村信夫

そんな疲れることしないんじゃない。

秋元雄史

たとえば藝大の美術館の収蔵品は5万点ちかくあるんです。その中には貴重な文化財もあるんだけれども、それをうまく展示し、紹介しているかというとそうでもないわけです。一方で、毎年150点ぐらい増え続けているんですよ。収蔵庫の問題もあるし、展示機会を多く作るという課題があるんだけれども、現実の作品の増加ペースにうまく対応できていない。そうなるとそれをどう活用していくのかというのは大きな課題なわけです。単に収蔵するだけではなくて、うまく展示し、紹介していきたい。すると民間の力を借りて展示スペースを作ったり、作品の展示をしたいと思う。直接マーケットに関わるわけではないにしろ、民間との関わりが出てくると思うのです。そういう機会はますます増えていくんだと思う。

水沢勉

コマーシャルなものと切り離してやってこうとすることが難しくなってきてるから、清廉潔白だけでは成り立たず、実際はなんらかの形でコマーシャルなものと付き合わなきゃいけない。ただ、国全体で、制度化してやるとなってくると、それはやはりどうかなと思います。

建畠晢

市場を活性化するために作品を売りますって美術館が決めたら、ものすごい反発来るよ。作品を高く売却することでアートシーンを活性化させるっていうことになるかどうか、分からないし。

水沢勉

モデルをつくらないと無理ですね。

建畠晢

それに海外の美術館がやっているのだって、マーケットに影響を与えようとしてやっているわけじゃないよね。自分たちの活動や運営のためになることが一番の目的であって。

秋元雄史

海外の美術館が作品を売却するにしても美術館のコレクションの充実ということだろうからね。

水沢勉

買うという前提が機能してるからでしょう。それを抜きにして考えることはそうとう無理があります。

建畠晢

作品が投資の対象になることは、資本主義である限り関わる人の自由だよ。でもやはり美術館側としては市場に直接関与しないというモラルは守るしかない。結果的に市場に影響を及ぼすことはあるけれども、それは結果としてのことで、それを直接の目的にするのはよくない。

秋元雄史

美術館が市場に直接関与することはもちろんよくない。ある距離を置くべきだと思う。ただコマーシャルなものと全く無縁というのは難しくなってきていると思う。

中村信夫

日本の美術界は市場とか投資とか言うと「卑しい行為」みたいな偏見があるから、議論がなかなか進みにくいよね。昔テレビに出たら「お前、不純だ!」と言われたことがあったな。もう30年以上前だけど、昔はそういう雰囲気が美術界にあったんだ。

建畠晢

大学でも一昔前は産学協同っていうのは忌まわしいものだった。でも今はすごい積極的にされてるじゃない、ポジティブに。それと似たようなところが美術館にないわけじゃない。今の段階ではノンプロフィット、公益法人としての規範があるから、市場に直接参加しちゃいけないっていうのはある。

中村信夫

若い頃とある会議にでた時に、経歴を聞かれたから「家具を作ってました」って言ったら「は? 僕たちはアカデミックなのに、なぜそんな君がここに?」なんて雰囲気になったこともありました。だから時代は良くなったんじゃないの、いろんな人間がいていいって感じになったもんね今は。


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